いまの、この世界が消え去ってしまっても -第7話-

西暦1983年[昭和58年]11月25日(金)

(今日は何曜日やったかな? 日曜日かな、 あー違うわ・・・あーあ、学校に行きたくないなぁ)
朝「目覚めるとき」というよりは、目を開ける「一瞬前」必ずこの思考が頭をよぎる。

そういえば、宿題やってなかったような気がする。
また、先生に怒られるし、今日は気持ち悪いフリして休もうかな・・・
よし、休もう! 今何時やろ?
そろそそろ、お母さんが起こしに来そうやけど・・・・

あれっ? おかしいな、全然 起こしに来ない
現実を直視するのがイヤで、起きていても目を開けるのが怖い病に侵されているボクは、母親が起こしに来ない限りは目を開けることはしない。

・・・・それにしても静かすぎるし、物凄くよく寝た気がする。
ちょっとだけ目を開けてみようか
恐る恐る薄目を開けてみると、明るい光を感じる。

この明るさは早朝の明るさではない・・・おかしい
思い切って体を起こしてみるか? エイッ!

部屋の時計を確認すると[9時23分]を表示している。
「あれっ、何で?」辺りを見回すと枕元に洗面器が置いてある。

何故かは分からないけども、今日は学校を休んでいるみたいだ。
とりあえず布団から抜け出して部屋のふすまを開ける。

ボクの家は2階も和室になっていて、隣の部屋にはテレビが置いてある
学校を休んだ日はいつも、お母さんが仕事に出かけたのを見計らって
テレビで[NHK教育チャンネル]を見るのだ。

木枠で囲まれたブラウン管テレビの電源スイッチを引っ張ると、ブンッという音がして画面がゆっくりと映像を映し出していく
画面の横にあるスイッチを押して、見たい番組にチャンネルを合わせる

金曜日は、あまり好きな番組がやっていない上に時間が経ってくると
どんどんツマラナイ番組になっていく

ボクはテレビだけが生きがいだ、テレビでアニメだけを見ているだけでいい
他の事など、どうでもいい、特に将来やりたい事もないし、なりたい職業もない
先のことなどを考えるのが めんどくさい。

自分が、この先、何かになる事なんか想像できない。

「暇だなぁ、ファミコンやりたいなぁ」


ボクが、あまりにも勉強しないから、お母さんにファミコンをどこかに隠されてしまった。

ファミコンを隠せば、ボクが勉強するとでも思っているのだろうか?
するわけがない、ボクはファミコンをしたいから勉強をしないんじゃなくて
勉強をしたくないから、していないんだから

お母さんは怒りに我を忘れると、短絡的に衝動的な行動をする。

いきなりファミコンを隠されてしまったのだから ”お手上げ” だ
お母さんは、いきなりルールを作って勝手にボクを裁く遡及法そきゅうほうの達人だ。

これをされると、どうする事もできないし
先に罰を与えられてしまったようなモノなので、それが逆に免罪符になってしまい
「勉強をしなくてもイイ」とさえ思ってしまう。

しかも、人間は慣れる生き物だ。
無ければ、無い状態に慣れてしまって、そのうち何とも思わなくなる。

ファミコンが無ければテレビを見ればいいし、テレビがなければ漫画を読めばいい
漫画がなければ絵を描けばいい。

「さ~て、何して遊ぼうかな」

目次

ボクは小学六年生 -ボク-

午後4時からは、アニメの再放送を見るのが毎日の日課だ。

結局、朝からテレビをずっと見ていたのだが、
清々すがすがしい気分だ
宿題をやってなくても平手ひらてで殴られることもないし、
うっとおしいクラスメイトの相手をしなくても済む
ボクは、今のこの瞬間が幸せなら、それでいい

「ただいまー」
妹の聡子さとこが帰って来た。

机の引き出しから急いで財布を取り出し、170円だけ握り締めて階段を駆け下りる
「サト、ジャンプ買ってきて!」

「ええ~・・」
いかにも不服そうな顔をしやがる

「後で、読ましたるで買ってきて!」
妹の眼前に、小銭を握り締めたコブシを突き出すと
後で読ませてもらえるコトを確約された妹は、ランドセルを玄関に置いて出て行った。

この二つ年下の妹が、最近言う事を聞かなくなってきたのが腹立たしい
ボクは機嫌が悪いとワザと妹に読ませないように、自分が読んでいるふりをしたくなる。

夕方、お母さんが帰って来て夕飯の支度をし始めた。

「ごはんできたよー!」
2階でジャンプを読んでいたのだが、大声で呼ばれたので仕方なく下に下りて行く
(うわっ、魚だ! 食べたくない)
何の魚かは分からないが、とにかく魚は食べたくない
「まだ、気持ちが悪いから、ご飯いらない」
お腹がへったら、ポテチでも食べればいいので無理に食べることはない。

2階に上がってテレビを付けっぱなしでジャンプを読んでいると、
聡子が上がって来て「ドラえもん」を見ようと言い出した。

先週までは、金曜の夜7時はドラえもんを見ていたのだが
友達のかっちゃんが『銀河漂流バイファム』が面白いと言っていたので、そっちを見るつもりだった
仕方なくテレビのチャンネルをジャンケンで決めることにした
さーいしょはグー、ジャンケン、ポン!」
勝った。
もし負けたら三回勝負という事にしようと思っていたが、あっさり勝った。

すると聡子は、そそくさと下に下りて行った。

けたたましく階段を上る音と、
母親の怒声が襲いかかる。
「何で、サトの番なのにテレビ見せたらへんの!!!」
はあぁぁ? サトの番ってなんだよ???
そんな事を決めたコトなんか無いぞ

お母さんは鬼の形相で近づいて来る、この状態になると何を言っても無駄だ
というよりも、説明しようにも恐ろしさのあまりに頭が真っ白になり言葉が出てこない。

お母さんが怒る時は、いつもこうだ
いつからか、このように決めつけてくる相手に対しては、説明しようとすることを初めからあきらめてしまうようになった。

お母さんはどんどん近づいて来る、この近付いて来るときが最も恐い
恐ろしい
恐ろしい
恐ろしい
ボクは体を丸めて防御態勢をとる、後ろから頭と背中を合計3発ほど叩かれた。

どうやら、母親の怒りは3発で収まったらしい
母親は躾のタメに叱るのではなく、自分の気が済むまで殴り続ける性質を持っている、感情のバケモノのような人間だ。

嵐が過ぎ去り、背中を丸めた状態でチラリとテレビの方を見ると、
妹は何事もなかったかのように
“すまし顔”で「ドラえもん」を見ている
その顔からは、罪悪感が微塵も感じられなかった。
憎い
憎い
憎い
ボクは世界中で一番コイツが嫌いだ。
こんなヤツ、生まれてこなければよかったのに・・・

平日は夜9時になると、子供は寝なくてはいけない
せっかくの休日が、気分の悪いまま終わってしまった
でも、明日は土曜日だから半日で帰れるのが せめてもの救いだ。

朝・・・・


朝なのかな?

また、お母さんが怒っている

ボクはランドセルに教科書を詰めている


てっちゃんがジャンプの話をしている

「ボクも読んだよ、てっちゃん・・・キン肉マン読んだよ」

「ブラックエンジェルズもキックオフもシェイプアップ乱も読んだよ!」
でも、言葉にならない


夢の中みたいに、体が勝手に動き回る。

あっ、高波瑞穂たかなみ みずほだ・・
心臓の鼓動を感じる

夢で見ると、いつもより・・

やっぱり夢なのかな?


夢の中で、夢って気付くか普通

明晰夢っていうヤツだっけ


だったら、自分の体は自分で、

道徳ってなんやねん!
誰かの心の感情が口から吐き出された

突然、感覚が急に重力を感じる
プールからい上がる瞬間のように体が重い

やっぱりダメだ、もう一度プールの中に沈んでいく

視界が傾き始めた

「動かして!」
声にならない・・・・

次回に続く

うんちく

銀河漂流バイファム
昭和のロボットアニメです。当時ドラえもんの裏番組だったので、ほとんどの人は知りません。

大人たちが全滅してしまい、13人の子供達だけで宇宙を漂流する物語です
OPが英語でカッコ良かったです。小学生心をくすぐられ要素満載でした。

BGMも、クラシックのホルスト『組曲-火星-』のアレンジが使われていたりして凝っていましたね
『組曲-火星-』はアニメ『トップをねらえ!』でも使われていました。

「さいしょはグー」これは、昭和の子供達のジャンケンの掛け声である。
この掛け声は、テレビ番組「8時だよ!全員集合」の後半のコント
ジャンケンで負けると、牛乳を一気飲みするなどの罰を受けなくてはならないというシンプルなモノだったが、
「さいしょはグー」という掛け声が話題になり、大人も子供もジャンケンの時に使うようになり
以後、10年以上はこの掛け声が使用され続けた。

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