いまの、この世界が消え去ってしまっても -第3話-

いまの、この世界が消え去ってしまっても -第1話-
いまの、この世界が消え去ってしまっても -第2話-

保健室のベッドは寝心地がいい、というよりも
みんなが勉強している時に、自分だけが
自由に妄想にひたれるのが嬉しいのかもしれない。

「妄想?」これは妄想なのか、
そういえば私はいつも自分の世界の中にいた。
授業中に先生の話など、いっさい聞いていない、
常に自分の作った世界の中の都合のいい自分
それなら まだマシだ、
自分に都合のいい世界を作りだして
「自分が努力をしなくてもいい世界」が好きだった。

ボクは小学六年生 -私のなかのボク-

魂などというものは存在しない、
私は脳細胞の信号刺激なのだ。
感情などというものは存在しない、
脳に分泌されるホルモンが
体に刺激を与えているだけだ。
「何のために?」
「種族を絶滅から守るために」

「守りたい種族って?」
「そりゃあ、人類だろう」

「じゃあ、どうして人間同士で争うの?」
「自分の遺伝子が一番大事だからだよ」

「遺伝子って?」
「自分の子孫だよ、
息子たちは本当にかわいい、孫はもっとかわいい」

「そんなハズはない!」
「あの、感情のバケモノのことか・・」

「・・・・・」
「あれは、本来の姿じゃないんだ」

「・・・くん」

「・・チくん」
体中にかかっていた圧力が急激に抜けて、
背中に重力を感じる
「1時間目終わったけど、どうする? 帰る?」
保健室の先生が、顔をのぞきこんでいた。
「若い・・・」
「はあ?」
じいさんから見たら誰だって若いのだがね、
先生を覆う空気が軽くなるのが分かった。

上体を起こしてみる、意識はハッキリしていた。
ベッドはカーテンで仕切られてはいるが、
隙間から数人の子供たちが、ふざけあっている様子がうかがえた。
休憩時間に私の様子を見に来たハズなのだが、
それどころではないらしい。
普段、めったに来ない場所に来て
テンションが上がってしまったのだろう。

「こらっ、いい加減にしなさい!」
動きが一瞬止まる、
起き上がっている私を見つけて、
男子三人がなだれ込んできた。
「キクちゃん、泣いとるやん」
本当の友達は ”将軍” とは呼ばない
そう言われれば、左頬がムズガユイ
慌ててトレーナーの袖でぬぐおうとしたが、
先生がティッシュペーパーを渡してくれた。
それをクシャッと丸めて涙を拭いたが、
右の頬は濡れていなかった。

「キーンコーン・・・」
2時間目の始まりのチャイムが鳴り始める
「ヤベェ、ずらかるぜ!」
三人組は勢いよく廊下に飛び出していった。

(あわただしい・・)
カーテンの陰に隠れて見えていなかったが、
女子が一人立っていた
「あっ・・・ 戻らんでいいんか?」
「先生に言われて来たで・・」
この歳になっても、
小学生女子を相手にするスキルを持ってない私は、
できれば先に教室に戻ってほしかったが
やはり一緒に戻る感じになってしまった。

並んで歩くと彼女の方が少し背が高い、
私がチビだっただけなのだが
( ほらほらほらほら、こういう感じになる・・・
 当時は普通にしゃべってたんだけど )

「菊池君さぁ、”8時だヨ” 見る?」
唐突に話しかけられたのもビックリしたが
( そっちか!)の驚きの方が強かった。
「班長は ”8時だヨ” 見るの?」
(しまった、質問に質問で返してしまった)
「見る」

「オレもいつも”8時だヨ” 見てる!
”ひょうきん族” 1回見たけど、
しょうもなかったで2度と見んわ!」
8時だヨ!全員集合”派はマイノリティだったので、
うれしくて調子に乗ってしまった。
「私は、たまに見るけど・・」

( だからぁ~、
完全否定しちゃダメなんだよぉー!! 何事も・・ )
いい歳して学習していなかった自分にうんざりした。

( 初日が土曜日でよかった )と思いつつも、
意外と残りの2時間は、あっという間に過ぎ去った。
帰りは保健室に来た中の
”かっちゃん”と、朝の”てっちゃん”が一緒に帰ることになり
「今週の”ウイングマン”どうなった?」やはりジャンプの話である。

道が田んぼに差しかかると、てっちゃんは急に立ち止まり
”ちっちゃいてっちゃん” を取り出した。
かっちゃんも ”ちっちゃいかっちゃん” を取り出した。
私は・・・
この歳になると、一周回って羞恥心がなくなるらしい。
田んぼの前に「たけのこの里」が三つ並んだ。

「あっ!!」
かっちゃんが急にさけび声をあげて駆け出した。
てっちゃんも慌ててそれに続く、
「ちょっ・・・」
まだ途中だったので、少しズボンに こぼして しまったが急いでしまいながら後を追う。

ビニ本が落ちとる!」
とりあえず、遠巻きに眺めてけん制しあうが、てっちゃん が「サッ」と拾うとページをめくりだす。
それを横からのぞき込むと、おばちゃんがセーラー服を着ているタイプのモノだった。
「スゲー・・」
妙に劇画タッチのリアルな漫画ものっていたが、肝心な部分は白い□で隠れていて見えない。

田んぼの脇でうずくまっている私たちの背後を、
中学生のお姉ちゃんたちが通り過ぎる。
「ヤベェ」かっちゃんは小声で言うと立ち上がり
「近道して帰ろっけー」
私たちには目もくれず、田んぼを斜めに横断しはじめた
かっちゃんは ”自由人” だ。

家に着いて時計を見ると、
12時を少し回っていた。
下校は登校の3倍くらいの時間がかかる。

「はらへったー」
入口の”ジャラジャラ”をくぐって台所に入ると
テーブルの上には、ラップをかけた冷めて固くなったオムライスが置いてあった。

私は、これが嫌いだったのだが、ふと思いついた。
( 電子レンジあるやん )
子供の頃の私は、電子レンジは”調理する機械”だと思っていたために、単純に出来上がっているモノを温めるという発想がなかったのだ。

あたたかい色で包まれた”オムライス”は
グルグル回りはじめる。
「チ~ン」普通においしかった。

お腹がふくれ、気分が落ち着いたところで思い出した。

こっちの世界に来て
すぐに、やっておかないといけない事があったのだ。
なにせ、こっちの世界に持ってこられるモノは、
唯一 ” 記憶 ” だけなのだから。

次回に続く

おまけ

8時だヨ!全員集合

土曜 夜8時の定番番組で絶大な人気を誇っていたが、裏番組で「オレたちひょうきん族」が始まってから徐々に人気が奪われていき、クラスでも「8時だヨ!全員集合」を見ているのは、ほんの僅かになっていった。
私は放送終了まで「8時だヨ!全員集合」を見続けたマイノリティである。

たけのこの里

たけのこの里」1979年(昭和54年)は、「きのこの山」1975年(昭和50年)の後継姉妹品として、株式会社明治から発売開始され「きのこの山」を上回る人気商品になる。私は元々「きのこの山」が大好きだったので、初めて「たけのこの里」のCMを見た時に期待に胸をふくらませて食べてみたが「きのこの山」の方が絶対にうまいと思った。
しかし、こちらも私はマイノリティであった。

↑絶対、怒られそう

ウイングマン

ジャンプに連載されていた「ウイングマン」、アニメタイトル「夢戦士ウイングマン」は アニメ「TIGER & BUNNY」のキャラクターデザイン原案の桂正和先生原作で、とにかく女の子のキャラがかわいかった
中でも”あおいさん”のちょっと年上のお姉さん感が好きでした。

ビニ本

エロ本のことです。書店でビニールの袋に入っていて中が見れないようになっていたため「ビニ本」と呼ばれていた。

ジャラジャラ

昭和の台所の入り口にあった、通称「ジャラジャラ」は木製のビーズでできた「珠(たま)のれん」のことです。
「昭和 ジャラジャラ」で検索すると出てきます。

↑でも、何かちょっと違う

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