いまの、この世界が消え去ってしまっても -第4話-



私が、こちちの世界 [西暦1983年(昭和58年)]に来て、
既に約37時間が経過している。
その間に、私が行動したことを
一旦まとめて整理しておこう。

・[西暦1983年(昭和58年)11月25日(金)]
到着→すぐに気を失う
・[西暦1983年(昭和58年)11月26日(土)]
学校→お昼ご飯を食べる(今ココ)

「うむ・・・何もしていないな」

さて、「何か」を”しなくてはいけない”ハズなのだが
「何するんだっけ?・・・・」

目次

私はおじいちゃん -はじまり-

西暦2048年(令和30年)1月26日(日)

「ジャジャーン♪・・・メールが届きました」
私は、ベッドの脇に置いてある
[携帯端末内蔵メガネ] の着信音で目を覚ました。
( この着信音、ビックリするからヤッパリ変えよ )

「今何時?」
布団にくるまったままでメガネに話しかける
「現在ノ時刻ハ午前7時23分デス」

どうせまた、ばあちゃんからの
「ゴミ出したのむ~、イエ~い」だろうな
「メガちゃん、メール読んで」
「ムリで~す 生体認証が必要なのだヨ、おじいちゃん ❤」
(この萌えキャラ風の音声案内も変えよ)

「音声案内を標準に戻す」
「かしこまりました。かしこ~・・・・
音声案内を標準に戻す処理をします」

ベッドから起き上がり、
脇に置いてある[携帯端末内蔵メガネ]をかけた。
このメガネは、レンズに画面が映し出される
[HUD(ヘッドアップディスプレイ)]になっている
– この音声案内を5段階で評価してください –
「・・・・・・・3」


– 本当に、この音声案内を終了してもよろしいですか? –
「はい・・」


– この音声案内を終了すると、500ポイントが失われます –
– この音声案内を終了してもよろしいですか? –
「はい・・・」


– この音声案内を終了する理由をこの中から お選びください –
「はよ、せーやっ!」



– 音声が認識できませんでした –
– もう一度 はじめから やり直してください –

– 1時間後 –

もう少しで買ったばかりの18万円もするメガネを、床に叩きつけるところだった。

「メールを読む・・」
「ピッ 生体認証、網膜スキャンを開始します」
メガネのテンプル(つる)から
骨伝導で音声が伝わってくる。

「日本政府からメールが届いています」
日本政府に知り合いなんて、いないハズやけど・・

「メールの信頼性は?」
「99.9999%(シックスナイン)です」

この前の、「日本国民生活安全調査」で粗品がもらえるというのを思い出した。
「メールを開く・・」
– 日本政府から重要な要件があります –
– つきましては ご都合のよい日時をお知らせください –

「いつでもいいよー」
「ピンポーン」間髪いれずに玄関のチャイムが鳴る
そんな訳がない、きっと”Amazon”だ

「じーちゃん、じーちゃん!」
リビングから、ばーちゃんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「どうした、ばーちゃんAmazonか?」

インターホンの画面には、
黒服、黒ネクタイの男が映っていた。
「何だこの人、葬式帰りか?」
「金田さんちの、おじーちゃん死んだんかなー」
玄関のドアを開けると、ガタイのいい黒服の男が二人と若そうな女性が押し入って来た。
「日本政府です、失礼します」
若い女性が私に声をかけ、玄関のドアをロックする。

キチンと靴をそろえて上がって来たので、強盗ではないだろう。
男たちは、どう見ても私よりも強そうなので、どうすることもできない。
最初に入ってきた男が、手に持っていたアタッシュケースを開き中の装置のスイッチを入れた。
「メガネがー!」メガネが急にシャットダウンしたので思わす叫んでしまった。
「念のため半径10メートル以内の電子機器を、一時的に使用不能にしました。」

彼等は、本当に日本政府の役人らしく、私に人類の未来を託すというのだ。

「こんな、じいさんに何が出来るんや、っていうか何が起こるんや」
「10年後に地球上の全生物が死滅します」
「何でぇぇぇぇぇぇぇー!」

「ムライ粒子の影響です」

 -ムライ粒子-

ムライ粒子とは西暦2034年に小惑星探査機「はちどり2」が小惑星「ツカウラ」から持ち帰った有機物から検出された物質を、村井研究所の村井博士等の手によって生み出された、人畜無害な半永久的エネルギー粒子である。

西暦2038年に実用エネルギーとして認可され、生成も容易な事から様々な国と地域で使用され続けている。

「人畜無害じゃなかったんかい!

ほとんどの国で使っとるやろ・・」
「粒子量が一定数を超えると、
遺伝子情報を変異させます」

「じゃあ、今すぐ使うのをやめればいいだけやん」
「今すぐやめて、10年後という意味です」
あまりにも彼女が淡々と話をするので、
私も少しずつ冷静さを取り戻していった。

つまり、過去に戻って”ムライ粒子”を何とかしなければならないという事らしいが
「どうやって、戻るんや?
タイムマシンでも開発されたんか!」
「そんなに嬉しそうな顔をされると言いにくいのですが、あなたの記憶だけを、過去に送ります」

・今の記憶を電気信号に変えて、
過去の自分の脳の記憶を電気信号で上書きする。

「過去の脳に送る?」

・光が1年間で進む距離が1光年(約9.5兆km)です。
・1光年離れた場所から見た地球は1年前の地球です。
・その地球に電気信号を飛ばします。
・すると一年間さかのぼるコトができます。

「まず、1光年先に移動するなんて不可能だろう」
「ムライ粒子を使います」

「それで光の速度を越えられるんか?」
「ムリですね・・・秒速30万kmには届きません」

・月面にあるソーラーパネルと人口衛星のパネルを使って光を往復させます。
・1往復で約76万kmのショートカットができます。
・合わせ鏡にして、光を何往復もさせます。
・1年前に地球があった場所に、ムライ粒子で加速した信号を送っておきます。
・1光年分の距離を稼いだら信号に光を照射します。


「ムライ粒子を無かったコトにするために、
ムライ粒子を使うんか・・・」
「皮肉ですが、そういう事です」

「どうして私なんだ?」
わざわざ、こんなじいさんを選ぶ必要性がないだろう。
「この前の「日本国民生活安全調査」の結果により選出されました」

– 今まで生きてきて、特に印象に残っている事柄を出来るだけ詳しく教えてください –

「香菜さん、何て答えましたか?」
「ほれっ、あのっ・・地震」
完全に思考を停止していた状態で、
質問をされたので慌てふためいている。 

「どの地震だよ? ばーちゃん」
地震なんて、たくさん起きてるだろ
「あんときに・・・
検索しようと思ったのに出来んかったんよ」
調査解答中は検索をロックしていたらしい・・・

宗義むねよしさんは何と解答されましたか?」
御巣鷹おすたか・・・・1985年」
中学二年の時の友人と、その会話をしたのを思い出したので1985年と回答した。

「そうなのですね・・・・」
どうやら、彼女も私が選ばれた理由が分かっていなかったらしい・・
解答者の中から AI(人工知能)が、条件に合致している候補者を選定しているという事だった。

「では、まいりましょうか・・・
香菜さんも、ご同行願います」
「エッ、もう行くの? 過去に・・・」
心の準備ができていないんですけど、
朝御飯も食べてないし・・・

「いえ、すぐに過去には飛びません、条件を満たすタイミングまで、出来るだけ情報を記憶してもらいます」
この歳になってから勉強するんかい・・・
「今度の日曜日に、孫ののぞみのお誕生日会なんで、その時は帰りたいんだけど・・」
プレゼント喜んでくれるかな? どんな顔するだろう

「ここに戻ることはできません、過去に出発する次の金曜日まで あなた方は拘束され続けます」
まるで、死刑宣告のような事を表情一つ変えずに言いやがる、何なんだこの女は・・

「じゃあ、過去から戻るのは いつ になるんや?」
「戻れません、片道切符です」
じゃあ、そこからもう一度人生を繰り返す・・・

「希のお誕生日会は、一年後まで おあずけ か・・・」
「さかのぼるのは、およそ64年前になります」
何言ってんだ、この女はマジで容赦しねえぞ、コラァ! 大人なので口には出しませんけど

「さっき、一光年って言ったよね」
「あれは、分かりやすくするタメの例えです。あなたは12歳に戻ります」
じゃあ、希が生まれてくるまでに、え~と・・・
「59年も、待たなきゃならないのか?」

「申し訳ありませんが、それも かないません」
「????????・・・・・何で?」

「あなたが過去に戻る事によって、地球上のすべての現象に影響を与えます」
「そんな、大袈裟な・・・私一人くらいで」
「確かに10分前に戻ったくらいでは、ほとんど影響を受けません」

しかし、あなたが戻るのは64年前です。

あなたが起こす行動がどんな些細な事であっても、
それが周りに影響を与え、
徐々に波紋のように広がっていきます。
当然、さかのぼった歳月が長ければ長いほど、
変化も大きくなります。
おそらく、
あなたは香菜さんと出会う事すらないでしょう。
ですから・・・

「私はもう一度、香菜と結婚する!
出会わなくても必ず探し出して香菜と結婚する!」

「それでも・・・希ちゃんだけではなく、
二人のご子息にも二度と会うことはできません」
「何でやっ!」

「兄弟は、同じ人間ですか?」
「ちがうに決まっとるやろ!」

同じ両親からであっても、
毎回違う人間が生まれてきます。
全く同じ遺伝子情報を持った子供は生まれてきません。
過去に戻って、今とは違う行動をするのですから、
香菜さんと結婚しても生まれてくるお子さんは
今存在している人物とは違う人間です。

「何で私の家族が そんな目に合わなきゃならんのだ!」
「あなたの家族だけではありません、あなたが戻った過去以降に受精した
すべての生物が生まれ替わります」
私に、そんな事を押し付けるのか、
この娘は・・・・・・・


「あんた、いくつだ?」
「今度の日曜日で、23歳になります」

自分たちも、いなくなるんだぞ
それでも ここに来たのか、この二人の男たちも

地球上の生命を守るために・・・・

いまの、この世界が消え去ってしまっても

いまの、この世界が消え去ってしまっても

次回に続く

補足

地球と月の平均距離は、約38万4400kmです。
これは地球の中心から月の中心までの距離です。と言っても全くピンときませんね。
地球の直径は約1万2700kmで、月の直径が約3500kmなので、
紙に1.3センチの円を描いて、38センチ離れた所に3ミリの円を描くと、大体の位置関係が分かります。
思っていたよりも遠いですよね。

1985年8月12日、日本航空123便が群馬県の御巣鷹の尾根に墜落しました。
この事故により、520名の命が失われました。

当時、中学二年生だった私にとって、初めての衝撃的な出来事でした。
その日、私はTVアニメ『ダーティペア』を見ていると、ニュース速報のテロップが流れました。
”日本航空123便が行方不明になりました” みたいな内容だったと思います

その後の番組が急きょ変更され、報道特別番組になり、しばらくして”墜落しました”と言う報道に変わりました。
連日、TVや新聞で報道され続け、夏休みが終わってからも学校では、その話題でもちきりでした。

事故当時、14歳という年齢と多くの人の命が失われたという事実が、大きく心に刻まれました。
ある日の新聞記事に、犠牲者の方の遺書が発見され、その遺書の内容が載っていました。
私は、その記事を読んで、泣いてしまったのを覚えています。

2008年公開のこの映画を見て、またあの時の思いが蘇りました。


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