いまの、この世界が消え去ってしまっても -第9話-



西暦1983年(昭和58年)11月28日(月)

月曜日の朝だ、おかしい何かがおかしい、昨日の朝に起きたときからボクはオカシイ
いったい何が起きたというんだ。月曜日なんていうのは一番最低な気分になるハズなのに、何ともないんだ。
宿題も昨日のうちにやってしまったし、時間割も調べてランドセルに用意済みだ。

こんなことは、小学校に入学してから初めてな気がする。

けたたましく階段を上る音がした。
「あれ!? 起きてる・・・」
布団から上体を起こしているボクを見た母親は呆気にとられている。

そんなハズがないからだろう。自分でも不思議なんだから信じられないのも無理はない。
学校に行くのが、特に嫌じゃないんだ。

朝の集団登校でいつものように てっちゃん が話しかけてきた
「”奇面組” 読んだ?」

『ハイスクール奇面組』か? 懐かしいな・・・
懐かしい? まあ、いいや
「”奇面組” 面白かったけど最終回がなぁ・・
アレは無いわ~」

てっちゃんが、あからさまに小馬鹿にしたような声で
「”奇面組” まだ、終わっとらへんやろぉ。何言っとるの?」

あれっ? 確かにそうだ! 昨日読んだけど、別に最終回じゃなかった。
でも、れいゆいが自転車で二人乗りして・・・
気のせいかな?

ボクは小学6年生 -ボクがボクであるために-

1時間目の授業が始まった。
「みんな、宿題やって来たか~、
忘れたやつおらんか?」
先生が声をかけた。誰も返事をしなかったので、先生は再びさっきよりも大声で声をかけた。

「将軍、ちゃんとやってきたんか?」
先生はだんだんとボクの方に近付いてくる。
ボクに対して言っているのは明白だ。ボクが宿題をやってくる筈が無いのだから当然だろう。
ボクは、ノートを広げて宿題のページを先生の方に向けた。

クラス中がざわめきだす。又ボクが先生に叱られるのを期待していたからだ。
先生も心なしか、少しがっかりしているように見えた。

何だか今日は気分がイイ。授業も先生の言っている事がよく分かる。
最も、いつも授業中は自分の世界に浸っていて、そもそも先生の言う事なんか全く聞いていないので、分かる筈がない。

知らないことを先生が教えてくれている。小学校の授業って、こんなに楽しかったんだ。
あっという間に放課後になった。

先生が[帰りの会]で図書室に新しく入った本の整理を、当番の班に確認してきた。
「今週、3班やったな。やっておいたか?」

ボク達のクラスは図書委員なので、新しく本が入ったら、昼休みに整理しておかなければならないのだが、すっかり忘れていた。

「はい、やっておきます」

班長の高波が答えたが、彼女もすっかり忘れていたようだった。帰りの会が終わった後

「ゴメン瑞穂、今日、塾あるからさあ…」
申し訳なさそうに女子二人は帰って行ってしまった。
「俺らも塾~」
おいおい、お前らは塾なんか行ってないだろ。

そうこうしているうちに、違う班のかっちゃんが声をかけてきた。
「菊ちゃん”バイファム”ビデオに撮ってあるで一緒に見よっけ」
かっちゃんの家はちょっとお金持ちで、ビデオデッキがあるんだ。羨ましい。
この前、聡子さとこのせいで見逃したやつだ。

高波は何も言わなかったけど、少し鼻が赤くなっていた。班長なのに委員の仕事を忘れてしまっていて、責任を感じているんだろう。
「かっちゃん、わりい、明日見せて」
高波が可哀想だったのもあるけど、
何故か『バイファム』も最終回までのあらすじが、頭の中に浮かんでいたからだ。

図書室に入った本は思っていたよりも沢山あって、
二人しか居なかったので意外と時間が掛かってしまった。
まあ、でもボクとしては高波と一緒だったので少し嬉しかったくらいだ。
態度に出てないといいんだけど・・・
出てるよな、きっと

「ただいま~」
帰るのが随分と遅くなってしまったが、気分は最高だ。高波とは、かなり仲良くなれたと確信している。

いきなり母親の怒声が響き渡った。
「お兄ちゃん! どこ行っとったの!!」
怒られることは覚悟していたので、別にどうという事はない。
それに図書委員の仕事をしていたんだから仕方がない。

克己かつみ君、死んじゃったよ、あんた何しとったの!?」

いったい、何を言われたのかが、分からなかった。かっちゃんが死んだって、何?


夜、お母さんに連れられて、かっちゃんのお通夜の会場に向かった。お母さんは、もう何も言わなかった。
ボクが帰ってこなかったので、ボクも巻き込まれたんじゃないかと心配していたのかもしれない。
お通夜の会場に着くと、学校の先生達は既に到着していた。クラスメイト達もだんだん集まって来る。

女子達はみんな泣いている。
ボクは高波瑞穂の姿を探した。

いた!
呆然ぼうぜんと立ち尽くしている。

かっちゃんは学校帰りに、交差点で右折して来たダンプカーにかれて、即死だったらしい。

人が車に跳ねられるタイミングなんて数秒だ。ボクが一緒に帰っていたら、轢かれなくて済んだハズだ。
高波が心配になった。もしかして『自分のせいでかっちゃんが死んでしまった』と思っているかもしれない。

棺桶の中のかっちゃんの顔を覗き込んだ。鼻に何か入っているけど、寝てるみたいだ。
急に、かっちゃんとの思い出が頭の中を駆け巡った。

学校の帰りに、かっちゃんの家に寄り道してビデオで『マクロス』を一緒に見た。
今日は一緒に『バイファム』を見る筈だった。

一緒に映画を見に行った。戦闘機が戦うやつ、F14トムキャットがカッコ良かった。ベトナム戦争の映画も
「セヴン・シックス ツー ミリメェタァ・・・」あれ、何て映画だったっけ? そんな映画あったかな?

かっちゃんは物知りだった。
『光は1秒間に30万キロ進むんやぞ』『30万キロ?』『地球を7周半や』『スゲー』

かっちゃんのバイクの後ろに乗せてもらって、カーブでころがった。
左側にコケたせいで、シフトペダルが曲がってフレームに食い込み、ギアチェンジができなくて後輪がロックしたまま動かなくなった。
バイクを動かせなくて、道のど真ん中・・・・でシフトペダルを直そうと引っ張っていると、
通りすがりのトラックのおっちゃんに
「クラッチをにぎればいいんやぞ」と言われた。動揺しすぎていて、そんな事も分からなかった。
クラッチを握りバイクを道の端に寄せて、力ずくでシフトペダルを直した。

血まみれで家に帰って、
お母さんにメチャクチャ怒られた。

あれっ? 何だこれ? 小学生のかっちゃんがバイクになんか乗れる訳ないのに・・

おかしいな? かっちゃんのお葬式に行ったことがある気がする。もっと、おじいちゃんだった。
「かっちゃんは、おじいちゃんだ!」

「なっ、何を言っているのこの子は、
すっ、すいません・・・」
お母さんに、かっちゃんの棺桶のそばから引っ張って連れていかれた。

かっちゃんは確かに死んでいるのに、何故だか死んでいる気がしない。
だって、かっちゃんとはこれからも一緒に色んなコトをするんだから。


途中で高波とすれ違った。無表情に見えたが、目が真っ赤に充血している。

今晩は全然眠れない、どんどん実感が湧いてきた。
かっちゃんが死んでしまった。布団の中で寝がえりを何回も打つ
ダメだ、息が段々と苦しくなってきた。
息が漏れないように口をつぐむ、隣の布団で寝ている妹に鳴き声を聞かれたくない。
口から息を吐き出したら泣いてしまう。布団の中に潜りこんで、腕で口を塞ぐ・・・
「かっ・・・」


「かっちゃん、死んじゃったのか・・・」

「ボクのせいだ。ボクが一緒に帰っていれば、かっちゃんは死ななかった」

「そうだね、その選択をすれば、かっちゃんは死ななかった。でも、お前のせいじゃない、もちろん高波瑞穂のせいでもない」

「じゃあ、誰のせいなの?」

「誰のせいでもないんだ。誰かのせいで、何てコトはない。誰かのせいにする必要なんてないんだよ」

「この頃の日本は、毎年1万人近くの人が交通事故で死んでいた。人は偶然が重なって死んでしまうんだ。そして、一生懸命考えて人が死なないようになっていく。人類の歴史は、そういう事を繰り返しながら成長していったんだ。
そして、全人類が幸せに暮らす方法が発明された。
ように思われた。でも、それは大きな間違いだった。人類どころじゃない。地球上のあらゆる生命体が全滅する事になる。その選択だけは阻止しなければならない。」

いつの間にか朝になっていた、眠っていたみたいだ。
「夢」だったのかな?
かっちゃんが死んじゃったのも・・・

教室に入ると、かっちゃんの机の上には
花瓶が置いてあった。

ボクの心は、もう一度、
かっちゃんが死んだ苦しみを味わった。

ボクは、かっちゃんの机を横目に見ながら席に着いた。
隣の席に視線を移す。高波はまだ来ていない。

結局、高波は来なかった。

先生が、同じ班の誰かが高波の家にプリントを持って行くように指示を出した。
「ボクが持って行きます」
今迄だったら、そんな事は決して言わなかった。だって絶対に冷やかされるからだ。

案の定「ひゅうひゅう」言う奴がいたけど、全く気にならなかった。
逆に、そいつを冷ややかな目で見てやった。何故だか、そいつの名前を思い出せない。

「ピンポ~ン」高波の家のインターホンを鳴らすが、この期に及んでいきなり緊張してきた。
『はい』
「あっ、あの・・・班の、学校のクラスの6年3組の、
えっと・・菊池と申すものでございます」
もう、支離滅裂しりめつれつだ。すぐに玄関のドアが開いて、高波のお母さんらしき人が出てきた。
流石に高波のお母さんだけあって、綺麗な人だった。

「あっ、あのこれ・・プリント持ってきました。綺麗なお母さんですね」
なーーーーーーーー、何を言っとるんだ!? ななななな、何でぇぇぇぇぇぇ!
顔が真っ赤になっているのが自分でもハッキリ分かるくらい、真っ赤になっていたに違いない。
「あら~、ちょっと待っててねぇ・・」

高波のお母さんは2階に上がって行き、
すぐに戻ってきた。

「上がって、瑞穂の部屋、2階だから」
そう言うと、わざわざスリッパを出してくれた。
エッ、上がるの? しかも、スリッパなんて出されたら余計に緊張しちゃうじゃないか。

階段を登るにつれて心臓の鼓動も高まっていく、女子の部屋なんて小学校2年生以来だ。

やはりノックくらい、した方がイイよね。”コンコン”
「入って」
「しっ、失礼します」
なんじゃこりゃ、会社の面接か。 会社?まあ、いいや

高波の部屋はフローリングで、ベッドも置いてある。やはり洋風の部屋はカッコイイ。
高波は、学習机の椅子に腰かけていた。

「えっ、パジャマ・・・」

「ああ、ごめんなさい。今日は一応、体調が悪くて休んだことになってるから」
いや別に、謝るほどの事でもないんだけど・・・
高波にうながされてベッドに腰をかける。

っていうか・・・・・、何でスリッパ履いてるの?・・お母さん? ホント馬鹿みたい」
何だろう? この言い回しに違和感を覚えた。聞いた事がない。
いや、あるか? ボクもやっぱりオカシイ、ボクがボクでないような気がする。

人が自分のアイデンティティを保つには、きっと同じ行動や衝動、過去の出来事の思い出が必要なハズだ。

ボクの思い出は、
ボクが経験していない事が混じっている。

次回に続く

うんちく

銀河漂流バイファム
昭和のロボットアニメです。当時ドラえもんの裏番組だったので、ほとんどの人は知りません。

大人たちが全滅してしまい、13人の子供達だけで宇宙を漂流する物語です
OPが英語でカッコ良かったです。小学生心をくすぐられ要素満載でした。

BGMも、クラシックのホルスト『組曲-火星-』のアレンジが使われていたりして凝っていましたね
『組曲-火星-』はアニメ『トップをねらえ!』でも使われていました。

1983年[昭和58年]の交通事故の死亡者数は、9,520人です
※毎日平均26人が亡くなっていました
これは、元々の車の安全性が低かったこともありますが、ドライバーのモラルが現在と比べると格段に低いというのもありました。

車の安全性の低さ

  • エアバッグなんてありません
  • 後席は2点式シートベルトでした(子供は3人掛けの後部座席に4人乗ってもOKでした)
    ※シートベルトの数が足りてませんね。後部座席はシートベルトをしなくても良かったんです。
  • チャイルドシートなんてありません
  • ABS(アンチロック ブレーキ システム)なんてありまん
  • 車のボディが弱い。特に〇〇車は、ぶつかるとグシャグシャになりました
  • 人を跳ねたときにショックを吸収するように出来ていませんでした
  • 原付(50cc以下のバイク)はノーヘルでOKでした
    ※1986年からNG

色々な法律が変わって、現在は昔に比べて・・・・・安全になりました

ドライバーのモラルは低かったです。
当時シートベルトをしている人なんて、ほとんどいませんでした。
法律上は前席はしなくてはいけませんが、子供の頃は助手席に乗ってもシートベルトをしていませんでした。
今考えると、とてつもなく恐ろしいですが、結構それが普通でした。

田舎というのもありましたが、歩行者用の信号が青でも、車は平気で右左折してきました。

飲酒運転も今よりは確実に多かったです。夜、蛇行している車がよく走っていました。

2020年の交通事故死者数は、2,839人です。
日本は、ちゃんと進歩しています
※過去の犠牲者のおかげなのがツライです

後輪がロックする

左側にコケたせいで、シフトペダルが曲がってフレームに食い込み、ギアチェンジができなくて後輪がロックしたまま動かなくなった。

アシ美

全く意味が分かりませんね

まさ

ギアが入ったままエンジンが止まると
後輪が動かなくなります

アシ美

エンジンをかければ
いいじゃないですか

まさ

バイクはギアが
ニュートラルに入っていないと
エンジンがかかりません

アシ美

クラッチをにぎって?

まさ

左のハンドルについているレバーが
クラッチレバーです
レバーを握るとクラッチが切れます

アシ美

あれ、ブレーキじゃないんですね

まさ

スクーターなら自転車と同じで
後輪ブレーキですけど

アシ美

クラッチを切る
どうなるんですか?

まさ

エンジンと後輪の接続が解除されて
後輪が回るようになります

アシ美

分かりましたけど
文章力を磨いた方がいいですね

まさ

私は、められて伸びるタイプ
なんですけどね

アシ美

それでは最後に
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